西日の当たる勝常寺 |
「会社の同僚が勝常寺の仏像の修理をしているのですが、金粉が欲しいので売っている店を紹介してほしいのです。」との事でした。彼は京都の(財)日本美術院に勤務していました。勝常寺は私の工房から車で10分ほどですので、手許の金粉を持って、その現場に行ってみました。
修理の二人が待っておられました。そして普段は本堂の奥深く、正月の元旦のみの開帳、それも遠く薄暗くどうにか輪郭が見える程度の仏様が明るい広場に横たえてありました。二人に断って見せていただきました。しっかりとした漆塗りのかなり大きな仏像、それが当時重要文化財の阿弥陀如来座像でした。
仕事柄つい漆のほうに目が行ってしまいます。どのような漆の下地か見当がつきませんでしたがかなりしっかりとくっついた下地に見えました。塗った漆面に一か所ちぢみがありましたが、ゆっくり乾かした様に見え精製漆が塗ってあると思いました。塗膜及び下地は長い年月のせいでしょうか大分弱っている様に見えました。そして、微かに金色に見える部分がありました。
見れば見るほど造りといい仕事といい素晴らしいものでうっとりとしてしまいました。そして、何よりの驚きは像の底の部分でした。
材は欅ではなくハルニレとの事でした。丸太を二つに割り芯の部分を取り除いて、再びくっつけてありました。軽くするためでしょうか底の部分は鑿で刳りぬいて鎹が打ち付けてありました。その鑿痕が力強く素晴らしいのです。普段は外気に触れないからなのでしょうか、木肌も白く真新しく数年前の削り跡の様に見えるほどです。まるで木の香りがする様でした。切れ味の良い鑿で力を込めて彫り込んでありました。
千年前の仏師の仕事ぶりが脳裏にうかびました。手の仕事はこうでなければ、と思いました。作り手を思わせる何かが素晴らしいのです。名品とよばれる作品には必ずその何かが隠されているのではないでしょうか。静かな気品に満ちたこの仏像こそ会津の誇る宝物と思った次第です。
来年の元旦には遠く微かに見える仏様を参拝に勝常寺に出かけるつもりです。