2015年10月3日土曜日

相田啓介:漆の精製

今作っている長皿。
木から採取した漆が生漆(きうるし)です。生漆は水分を多く含み、乾きも大変早く、下地などに適した漆です。しかし時の経過とともに数年後には乾きも鈍くなり、やがて乾かない漆になってしまいます。
その生漆を大きな木鉢などに入れて天日やその他の熱を与えながらゆっくりと撹拌し水分を抜く作業を「漆くろめ」といいます。漆くろめには「なやし」という作業がセットになっています。生漆に熱をかける前に木の箆などでよく摺り込みます。生漆には乾きの素となるラッカーゼという酵素が水分、ゴム質などと共にコロイド状になって漆の中に存在しています。それらをよく摺り込むことでキメを細かくしてゆく作業が「なやし」です。なやしによって漆は程よく穏やかに艶も良く乾くようになるのです。
日本では縄文時代頃から漆が使われるようになったと云われていますが、「くろめ漆」がいつごろから使われだしたのか判っていません。正倉院の漆器類は多分「くろめ漆」が使用されているのでしょうが、各地の縄文、弥生時代の出土品に使われている漆が生漆なのか「くろめ漆」なのかについては判断の方法が無いというのが現状です。ですから塗り上がった状態を見て生漆とくろめ漆の推定をしているにすぎません。
くろめ漆は乾きもゆっくりで刷毛で塗ることが出来ます。しかも乾いた後の硬さ(丈夫さ)は生漆と同じといわれます。またくろめ漆は長期間保存することができます。従ってかなり古い時代からくろめ漆を使っていた、と推測することができます。
私が若いころは漆の精製は専門の業者に任せきり、もしくは精製漆を買って使うのが普通で、今でもその様にしている塗師が殆どです。
精製業者は明治時代頃に現れたようです。それ以前は各々自分で漆くろめをし、それぞれの家にくろめ道具が残っていました。現在では自分で漆くろめをしている塗師、塗師屋も増えたようです。私も数十年自分で漆をくろめていますが、殊更それを売物にしたくはありません。
自分の漆くろめをステイタスの様に、その画像を公開したりする人もあるようですが、ショーの様でもあり、私は好みません。

今進行中のステイタス。拭き漆の皿

ステイタス溢れる、長さ32㎝

手前はまだ木地の状態。相田雄壱郎作。