2015年10月16日金曜日

相田啓介:漆の基本、下地について。

所謂、秀衡椀。秀逸な作品が全てではないのですが、堅地の物が比較的に多い様に思います。


昭和51年だと思いますが、輪島の伝説の塗師、奥田達朗氏が会津若松にやって来た折りの事です。
会津の有名な漆器店の資料室で会津の名品を私と二人で見学していた時の事です。
黒塗りの立派な義太夫の見台を見て「これは、漆が木地から浮いている。漆が木地にくっついていない。」と奥田氏が言いだしたのです。

私にすれば木地も良いし、下地のキレも良く上塗りといったらこの上なく上手だし、その塗付されている漆は見たことも無いような漆で、文句の付けようもない会津の漆器として自慢できる品だと思っていました。
しかし、漆が木地に食いついていないと云われてみればその通りなのかもしれない、とその時思いました。その様な物の見方があるのか、とも思いました。しかし時経つにつれ、これは一番大切なものの見方、考え方であると思い始めました。
まず、下地が堅いのか柔らかいのか、それが木地に密着して食いついているのかどうか。例外はあるにせよ、漆器にとって一番大切な事と今は思います。

漆器を手で触れてみると堅いかどうかはわかります。見てわかる様になるには、かなりの時間がかかる様です。私自身は、今になってみれば、多少それが見れるようになったのかもしれません。

良質な漆器の条件として、下地が堅く木地に密着していること。
これは基本的な事と思います。良質な下地がなければ、どんな素晴らしい上塗りも意味がありません。物を見るという眼力などというものはともかく、自分の作る漆器はその基本を守り通したいと思いつつ仕事を続けて来ました。
いろいろな事情で堅地が出来ない場合にはせめて漆が木地に食いつくように工夫を重ねた漆器作りをしてきたつもりです。
そういう事にあまり頓着しないのが現代の風潮なのか随分と横着な下地、それどころか下地をしない漆器が一流作家の作品として堂々とまかり通っている様です。これでは、漆器のファンを増やすどころか減らす一方なのではないでしょうか?


数分間電子レンジにかけた椀は急激に木地が歪み、いかに食いつきを配慮した
下地であっても、塗膜が剥離します。画像の塗膜は電子レンジによって剥がれた
椀の塗膜。

堅地の塗膜。

裏側は着せもの、の布

厚さ1・2ミリ